顔面けいれんに対するボツリヌス治療
片側の顔面が、いつの間にかピクピク痙攣する状態を片側顔面けいれんといいます。きっかけは精神的な緊張、例えば受付での応対や、司会の仕事、日常のストレスなどです。実際に脳の中で何が起こっているかというと、顔面を動かす指令を伝える顔面神経が、脳を栄養する動脈と強く接触し、その動脈の刺激が伝わることで顔面けいれんが誘発されます。脳の血管は、全身の血管と同様、年をとればとるほど動脈硬化が進行してきます。具体的には動脈は硬くなり、あるいは蛇行して、より強く周囲の構造物を圧迫するようになります。ですから片側顔面けいれんは若い人にはあまり多くなく、好発年齢は中年以降といえます。程度によりますが、軽ければ内服治療により症状を緩和することは可能ですが、加齢とともに症状が進行する方も多いです。そうなった場合に、一時的にけいれんする顔面の筋肉にボツリヌス毒素を注射することにより、表情筋のけいれんを抑えるのがボツリヌス治療です。ボツリヌス菌そのものを使用するのではなく、その菌が産生する毒素のみを精製して注射しますので安全です。まず顔面のどこの筋肉にどのくらいの量を打つか患者さんと相談し、初回の注射は少々弱めの量で注射を行います。効果は平均的に数か月程度で、薬の効果が切れてきますと顔面けいれんが再発してきます。ですから注射は1回で終わるのではなく、その人その人により繰り返し行わなければならないことが多いです。比較的若い方では、一生のうち何十回も注射をするのは大変ですから、開頭手術により顔面神経と脳血管の接触を解除するという選択肢も勧められます。
上下肢痙縮に対するボツリヌス注射
上下肢の痙縮に対するボトックス治療を開始しました。脳梗塞や脊髄損傷などの麻痺に伴う痙縮に対し有効な治療法です。
脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」とは
脳卒中の後遺症でよくみられる障害の一つに「痙縮 けいしゅく」という症状があります。
痙縮(けいしゅく)とは筋肉が緊張しすぎて、手足が動かしにくかったり勝手に動いてしまう状態のことです。手指が握ったままとなり開きにくい、ひじが曲がる、足先が足の裏側のほうに曲がってしまうなどの症状がみられます。脳卒中の発症後、時間の経過とともにまひ(片まひ)と一緒にあらわれることが多い症状です。関節を動かす際に作動する筋肉に対し、拮抗する筋肉がうまく弛緩してくれないために生じる現象です。
痙縮があると日常生活の些細なことにも支障がでることがあります。
- 肩やひじが固まったように動かず、着替えや入浴に苦労する
- 手首やひじが曲がったまま伸びず、ものをつかみにくい
- つま先立って、かかとがつかず、歩くときのバランスが悪い
- ひじが曲がったまま伸びず、人や物にぶつかってしまう
- 手の指が曲がったまま伸びず、手洗いや爪切りがしにくい
- 足の指が曲がったまま伸びず、体重がかかって痛みが生じる
痙縮(けいしゅく)は、日常生活に支障が生じるだけでなく、リハビリテーションの妨げにもなってしまう場合があります。また、痙縮(けいしゅく)の症状を長い間放っておくと、筋肉が固まってさらに関節の運動が制限される「拘縮(こうしゅく)」という症状につながることもあります。
痙縮の予防には、もちろん脳梗塞発症急性期のリハビリによる可動域訓練が欠かせませんが、麻痺の回復期に症状が残存し、日常生活にも支障を来している場合には、何らかの治療が必要です。現在、痙縮の治療には、内服薬、ボツリヌス療法、神経ブロック療法、外科的 療法、バクロフェン髄注療法などがあります。患者さんの病態や治療目的を 考慮して、リハビリテーションとこれらの治療法を組み合わせて行います。
痙縮に対するお薬
テルネリン、ミオナール、ダントロレンなどの内服で、緊張している筋肉を緩めることで作用します。眠気などの副作用もありますので、投与量に関しては医師との相談が必要です。
注射薬(ボツリヌス療法)
筋肉を緊張させている神経の働きを抑える、ボツリヌストキシンというお薬を注射します。ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質(ボツリヌストキシン)を有効成分とするお薬を筋肉内に注射する治療法です。ボツリヌス菌を注射するわけではないので、感染の心配はありません。
このお薬には、筋肉を緊張させている神経の働きをおさえる作用があるため、手足のつっぱり(痙縮 けいしゅく)による筋肉の緊張をやわらげることができ、次のようなことが期待できます。
- 手足の関節が動かしやすくなり、日常生活の動作が行いやすくなる
- 関節が固まって動きにくくなったり、変形するのを防ぐ(拘縮予防)
- 介護の負担が軽くなる
- リハビリテーションが行いやすくなる
- 痙縮による痛みがやわらぐ
ボツリヌス療法によって筋肉の緊張がやわらいでも、リハビリテーションを行わなければ機能の回復は望めません。リハビリテーションはそのまま継続しながら、ボツリヌス療法を一緒に行うことによって、より日常生活の動作などが行いやすくなることが期待できます。
ボツリヌス療法の効果は、4か月ほどで徐々に消えてしまうので、治療を続ける場合には、年に数回、注射を受けることになります。ただし、効果の持続期間には個人差があるので、医師と症状を相談しながら、治療計画を立てていきます。
注射をする部位に関しても、患者さんごとに痙縮の部位や程度もそれぞれ異なりますので、事前診察の際によく相談させていただくことが重要です。もし痙縮でお困りの場合にはぜひ外来にてぜひご相談ください。
- 院長
- 落合 周太郎
(日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄外科学会認定医/日本脳卒中学会専門医) - 診療科目
- 脳神経外科 脳神経内科 内科 放射線科
- 所在地
- 神奈川県藤沢市湘南台2-7-15
東急ドエルアルス湘南台アネックス1F - アクセス
- 小田急線 相鉄線 横浜市営地下鉄
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